PROFESSIONAL 2022.02.10

卸業から小売業の開拓へ、その決断と情熱

常務・道の駅やよい 駅長 木許 博基

「ここでやっていく」覚悟と決意

私が佐伯海産に入社したのは30数年前、19歳のときでした。先代の社長と今の社長の二人と面接した場面を今でも覚えています。先代の社長は、部下に厳しい表情を見せることもありましたが、本心は優しい方でした。当時、佐伯海産は卸業のほか、釣り餌や製氷の販売など事業を多角的に展開していました。私は入社した時から佐伯海産のことが好きで、配属先の希望も海産物卸事業部と決めていました。同僚や先輩たちライバルとも競争し、何とか希望の部署に入りましたが、配属された後もポジションを守るため必死で仕事していました。

新鮮で美味しい海産物が色とりどり並ぶ、海の市場〇

卸事業部に配属されてしばらく経つと、いりこ、ちりめん、丸干しなどの海産物の仕入れのために日本全国を飛び回るようになりました。あるとき関西で買付していたところ「佐伯海産だったら、うちが立て替えておくよ」と言われたことがあります。佐伯海産のブランドがいかに広く浸透しているか、そして信頼されているかを、改めて思い知らされた瞬間でした。私はそのとき「ここでやっていくんだ」と、誓いを新たにしました。

しかし、会社も事業も常に順風満帆というわけではありません。業績の右下がりが続き、部長が突然退職し、役職者が社長と自分だけになった時期もありました。「次は自分のクビかもしれない」と追い詰められた焦りと、「一つ一つの選択に全ての意識を集中しないといけない」と昂る気持ちがありました。社長とも協議した結果、釣り餌業や製氷業を辞めて、卸業にリソースを集中する決断をしました。入社時は22人いた従業員が、13人になっていました。

選択と集中でなんとか事業を継続させながら3年ほど経ったとき、社長から「仕入れの入札にはもう行かんでいい。小売業の開拓を任せたい」と言われました。この事業は今後、佐伯海産の主力事業になるに違いないと直感的に思いました。佐伯海産の社運をかけた選択を私に託した。私自身はそう受け取って、そこから11年間、『さいき海の市場◯』の責任者として、店づくり全体に携わってきました。

美味しさで勝負できる商品「だけ」が並ぶ店舗

私たちの取り扱う商品は、テレビCM常連の商品とは違います。常連のお客様が一口試食して「まあまあ美味しい」では買ってくれません。「やめられない、とまらないくらい美味しい」で、やっと財布の紐を緩めてくれます。最寄りのスーパーではなく、わざわざさいき海の市場◯に来てくれるお客様に私たちができること、それはここでしか買えないとびきり美味しい商品を豊富に取り揃えておくことです。

道の駅 やよいのスタッフと。

私たちのお店には全国からメーカーや生産者が営業に来てくれます。10人以上のスタッフが試食して「美味しい」の評価が出て初めて商品棚に並びます。商品棚は戦場です。あの商品も並べたい、この商品も並べたい。でもスペースは限られている。1品入れたら1品を下げないといけない。いつも心を鬼にして並べる商品を決めています。

営業時間中の店内にも、試行錯誤した結果生み出したスタイルがあります。商品を綺麗に並べるのは最初のオープン時だけ。例えば大人気の商品があって、いろんなお客さんの手に取ってもらえるような商品の棚は、乱れなく綺麗に整っているでしょうか。お客さんに手に取ってもらって、多少もみくちゃにされた商品棚は人気がある証拠なのです。それをあえて綺麗にしすぎることはありません。

一つ一つの壁を粘り強く越えられる人材

商品によっては、私が店頭に立って焼き方や食べ方をお客様に直接お伝えすることもあります。それで一時期、アジのみりん干しが主力商品のアジの開きの売上を超えることもありました。お客様にどうやったら買ってもらえるか。そのヒントはやはりお客様にあります。従業員には「商品棚を綺麗にする時間があったら、店に出てお客様と話せ」とよく言っています。

「声出ししても売上が上がるわけではない」従業員からそう言われたことがあります。これまで伝えてきたつもりでいたことが、全く伝わってなかった。この数年、自分は何をしていたんだろう。そんな気持ちになりました。やってできないことなんてありません。若い世代の従業員たちにはそれを実感して欲しい。声出しから生まれる、お客様とのコミュニケーションやお店の活気ある雰囲気は、結果として、必ず売上につながります。

豊かな自然で育った地元の食材が並ぶ「弥生ぴかいち」

物覚えが悪くても大丈夫です。2回でも3回でも教えます。遠回りでもなんとかゴールを目指して欲しい。根性や、逞しさや、優しさで、壁を一つ一つ乗り越えて欲しい。生産者が売れ残った商品を持ち帰るときに「余らせて申し訳ない。持って帰らせて申し訳ない。明日こそは。」そんな気持ちでいてほしいと思っています。

道の駅のビジネスを成功させたい

道の駅やよいを任されることになったのは突然でした。「やよいを元気にする会」の会合に呼ばれて行ってみると、知った顔が酒を汲みにやってくる。それを見て驚いた社長から、「駅長になれ」と言われました。寝耳に水だったので、最初は抵抗がありました。人をまとめたりするのがあまり得意ではありません。それでも社長は一歩も譲らず。こうして道の駅やよいの駅長になることが決定しました。

鮮度壱番もさいき海の市場○も引き続き担当するつもりでした。しかし、現場にいないのに指示だけするというのが性に合わないことはわかっていました。それをやっても業績は伸びません。現場の人と成功や失敗を噛み締めながら、何とかゴールまで導きたい。そんな思いでこれまで仕事してきました。さいき海の市場◯は、全くのゼロから手塩にかけて11年。後ろ髪を引かれる思いはありましたが、後任に引き継ぐ決断をしました。

道の駅やよいは、佐伯海産が指定管理者として運営しています。私たちが営利目的で全てを管理しているわけではなく、手が余ることは自治体によって、つまり市民の税金によって運営されています。当面の目標は、補助で賄われているサービスを停止させて、なんとか単独で運営できる体制をつくることです。大分エリアで満足な利益を出せている道の駅は、多く見積もっても2、3箇所程度。だからこそ私たちは、なんとか5年以内に、一切の補助を受けることなく十分な利益を生み出せる状態まで成長させたい。そんな思いで、従業員たちと日々奮闘しています。

佐伯の人々

今日のこの人

佐伯海産一熱い男。

趣味は走ることで、持久力抜群。現社長が若いころからずっと側にいる貴重な人材。「佐伯海産一熱い男」であることに異を唱える者はいない。海産物のことはもちろん、仕入れや商品開発にも精通している。道の駅やよいの現駅長、かつムードメーカーでもある。

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